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新しいマンション供給方式−スケルトン定借マンション

阪神大震災は現代の都市のもつ様々な問題点を露にしました。その中のひとつに分譲マンションの建替えの問題があります。区分所有法により分譲マンションの建替えには所有者の80%の同意が必要です。しかし、所有者の立場は人それぞれです。高齢のため今更建替えてもという人や人に貸しているので多少老朽化していても構わないと考える人、リストラにあったため費用の工面ができない人なども当然いるはずです。

一般に、「賃貸マンションに家賃を払い続けるより多少ローンの返済がきつくても分譲マンションは後に残るぶん得だ」と言われています。しかし本当にそうなのでしょうか。老朽化したマンションに資産価値はあるのでしょうか。今までのところ実際に建替えに成功した例は多くありません。しかもそのうちのほとんどは容積率に余裕があり、建替えることにより増加する床面積を分譲することにより元からの所有者は小額の費用で建替え前より広い新築の住居が手に入ったというものです。一方、近年建設されたマンションにはそのような容積率の余裕がある例はほとんどなく、設計者は法規限度ぎりぎりの床面積をいかにとるかということに腐心しています。

そうは言っても一戸建て住宅はなかなか手が出ないし、賃貸マンションでは将来に不安があるというのも事実です。そんな中、建築研究所の小林秀樹氏が中心になって考えられたのが「スケルトン定借マンション(通称つくば方式)」です。もともとの発想が、従来の色々な方式の問題点を解決するということから来ているので対処療法的な面は否めませんが、現在考えられる最良のシステムではないかと思います。

一般的なスケルトン定借マンションの概要は以下の通りです。

 1.企画者(入居希望者でもよい)が土地(借地)の手配をし、マンションの大まかな基本計画をする
 2.この基本計画をもとに戸数とそれぞれの概算建設費を算出し入居者を募集する
 3.入居者は月に1、2回の会合をもち、入居者の意見をある程度取り入れながら設計を進める
 4.建設工事開始
   スケルトン(構造体等)は入居者の区分所有、各戸の内装は各自の自由設計で各自の所有、土地は借地
 5.竣工・入居
 6.竣工から30年後にスケルトンを入居者から地主に売却
   その後も入居者が住み続ける場合はこのスケルトン代と今後の家賃の一部を相殺する
   (よって地主がお金を工面する必要はない)
   また地主には買い取らないという選択肢もある
 7.竣工から60年後に借地契約終了
前に対処療法的と書きましたが、それでは他の方式とどう違うのでしょうか。

・分譲マンションとの比較

分譲マンションの問題点は築後30年たった頃から必要になってくる大規模修繕などが入居者の80%の合意が得られないために難しくなり建物がスラム化する可能性があること、同様の理由により将来の建替えが困難なことなどがあげられる。スケルトン定借マンションの場合60年後には入居者は全員退去し建物は地主の所有になるので建替えも容易である。また、スケルトン定借マンションの前提としてスケルトン部分は100年は持つ高品質のものとするので借地契約終了後も内装に手を入れることにより地主は賃貸マンション経営を続けることも可能。価格的には土地が借地の分、分譲マンションより低価格で購入することが出来る。
・賃貸マンションとの比較
最初の30年間は地代のみ、その後も60年まではスケルトン代と家賃を相殺することにより比較的低家賃で住み続けることが可能なため老後の家賃負担も抑えることが出来る。
・定借マンションとの比較
契約期間50年程度の定借マンションの場合40年を過ぎた頃から適切な修繕が行なわれなくなり、スラム化する可能性がある。スケルトン定借マンションの場合30−60年後は一般的にスケルトンは地主の所有となるので修繕計画も実行し易い。また、築後20−30年の修繕に関しても地主のスケルトン買い取り価格に反映するため入居者は必要な修繕を行なわざるを得ない。
また、はっきりとした利点とは言えませんが入居者が相談しながら建物設計していくというコーポラティブ方式のためその過程を通じて入居者同士+地主の親睦が深まり良好なコミュニティーが生まれるということもあるようです。

しかしスケルトン定借マンションにももちろん欠点はあります。まずは何といっても60年後には建物も土地も地主に返さなければならないということです。子孫に財産として残すことは出来ません。また、今のところ民間の金融機関では定期借地権をつかった方式ではローンが組めません。建物には担保価値を認めないということです。スケルトン定借マンションが一般に普及してくれば変わる可能性はあると思いますが現状では難しいようです。さらに、欠点とはいえませんが、借地の強みを生かすには地価が高い所でなければなりません。建物の建設費に比べて地価が高い方がスケルトン定借マンションと分譲マンションの価格差が大きくなります。

ここに揚げたのは主に入居者の視点です。しかし地主にも大きな利点があります。
一般にスケルトン定借マンションに適した比較的立地の良い土地は先祖代々受け継がれてきた土地が多く、地主は土地を手放したがらない傾向があります。例えば等価交換方式でマンションを建てた場合1〜3戸程度は手に入りますが、土地は手放したも同然です。一方賃貸マンションを経営すれば土地は残りますが、空室が出れば建設費が返済できないなどの問題が生じ、結果として土地すら手放さざるをえないというケースもあるようです。スケルトン定借マンションの場合、地主が望めば60年間は借地人が保証され、60年後には土地も返ってくるのです。
ただし残念ながら賃貸マンションに比べると相続税対策という面ではあまり効果的ではありません。スケルトン定借マンションを建てても土地の評価額は20%程度しか下がりません。その対策として一部を地主所有の賃貸マンションや店舗としている例もあります。

さらに企画者・設計者にも利点があります。あらかじめ入居者希望者が集まって、相談しながらマンションをつくる方式をコーポラティブ方式といい、スケルトン定借マンションもコーポラティブ方式を取り入れることが多いようです。ただ、一般のコーポラティブ方式ではゼロから設計を始めるため自由度が極めて高く、入居者にとっては理想とも言えるのですが、企画者・設計者は入居者間の調整に忙殺され、結果として仕事としては面白くても経営上は2度とやりたくないというケースが多いようです。その点スケルトン定借マンションの場合、各戸の戸境壁はあらかじめほぼ決定されており住戸内の設計に専念できるので一般のコーポラティブ方式に比べると負担は少ないようです。それでも、住戸内に車椅子用のスロープをつくるなど自由度は高く、入居者の満足度は高いようです。

社会資本として考えた場合にも100年もつマンションというのは大きな価値があると言えます。また、入居者が設計の段階から参画するので周辺との関係なども含めて良好な住環境が形成される可能性が高いと思われます。

確かに細かく考えていくと他にも色々な問題が起こる可能性はあります。例えば30年後に地主が買い取りを一切拒否した場合60年間の定期借地権付マンションと同様の問題が起こる可能性がある、30年後地主にスケルトンを売却したら地主が維持管理を行なわない等々。
今後実例が増えるに従って問題点も明らかになりそれらの解決策(あらかじめ契約書に明記するなど)も確立してくると思われます。土地を手放したくない地主と立地の良い所に低価格で住みたい入居者にとって大きな利点のある方式であり、将来的にマンション供給の主流になる可能性をもったシステムだと考えられます。

1998/06/30